「タイムスリップ」という体験を、初めて、本当に、してしまった。
映画「ベイビー大丈夫か?BEAT CHILD1987」のことである。
そして「タイムスリップ」とは、ただ懐かしかったり、楽しかったりするだけではなくて、結構しんどいことであることも初めて知った。
この映画は、1987年熊本・阿蘇にて、日本で初めて行われた野外オールナイトロックフェスの実録である。ブルーハーツ、ボウイ、レッドウォリアーズ、佐野元春、ストリートスライダーズ、渡辺美里、白井貴子、ハウンドドッグ、岡村靖幸、尾崎豊という「バンドブーム」真っ只中のスーパースター達が集い、豪雨の中、12時間ぶっ続けで行われたライブの記録である。現在ならば当然中止になるであろう過酷な環境の中、ミュージシャンもスタッフも観客も、あの時代特有の根性論で豪雨の一晩を乗り越えてゆく。
165分という長い映像、ドキュメンタリーは、YOUTUBEなどで断片的に観る映像とは圧倒的に違い、生々しく過去を立ち上がらせてゆく。26年前のミュージシャンの姿、スタッフ、観客の姿を、僕の目の前に完全に立ち上がらせるのである。劇場の大画面に立ち上がった彼らの姿は、26年前の自分自身の姿ともイコールであり、それらと本格的に対面する羽目になる。
26年前。当時流行っていた服装、当時の日常の服装。メガネの形、やたらタバコと吸い、ライブでは拳を上に突き上げてリズムをとるのが主流だった。シャツをきっちりとズボンの中に入れ、髪は刈り上げが全盛で、みな眉毛が濃かった。ステージではツヤツヤとした大友康平がシャウトし、妙に若く美しいダイアモンドユカイがマイクスタンドを振り回す。岡村靖幸は極限までキモチワルサ全開で爆笑の域であり(しかしそれは天才故であり)渡辺美里の衣装も、レッズのギタリスト・シャケの衣装も今からみればギャグに近い。
過去はある意味、滑稽で、ある意味グロテスクでもある。
みんな真剣で、それらは最先端だった。
いつしかそれらは滑稽となり、グロともなりうる。
時が流れる、ということの事実の一つなのだろう。
26年という歳月のボリュームがドンと、目の前に置かれる。
映画を見終わった夜、僕は上手く寝付けなかった。
26年前の彼らが、本当に居るのである。そこらへんに。
これは初体験の「怖いくらい」のタイムスリップでもあった。
豪雨の中、ステージ上の白井貴子がズブ濡れの観客に向かって叫ぶ。
「みんな、大丈夫か〜?」
この「大丈夫か〜?」は、26年前の彼ら(あるいは自分自身)から、現在の我々に向けたメッセージでもある。当時青春真っ只中だった「みんな」よ、今、元気にやってるかい?どんな人生送ってるかい?あの頃みたいに「燃えている」かい?
「みんな、大丈夫か〜?」
という風に、スクリーンから連呼されるわけです。
この映画は、単なるライブ映画ではないよな。
時ということ、人生ということを、不意に突っつかれる映画です。
あの時代に青春で過ごし、彼らが好きだった方、この映画観てみるといいですよ。
ぶっとびますよ。過去に。貴重な体験です。
<2013/10/30>